土地や家など親族の相続財産に不動産がある場合、生前贈与と相続のどちらがいいのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そもそも「生前贈与と相続」とはどういった違いがあるのか、それぞれの税金面やメリットを知りどちらを選ぶのが適切か判断するのが重要です。
本記事では、不動産の生前贈与と相続の違いやどちらが適しているのかを分かりやすく解説します。
この記事を読めば生前贈与と相続のどちらが自分に適しているか判断できるので、ぜひ最後までご覧ください。
不動産の生前贈与と相続の違い
不動産の所有者が生きているうちに自分の財産を渡すのが「生前贈与」で、亡くなってから相続人へ財産を引き継ぐのが「相続」です。
下記の表で生前贈与と相続の違いを確認してみましょう。
生前贈与 | 相続 | |
---|---|---|
財産をあげられる時期 | 贈与者の生存中いつでも可能 | 被相続人の死亡時 |
財産を渡す人の範囲 | 贈与者と贈与者の決めた相手 | 配偶者や子など一定の親族 |
課税される税金 | 贈与税 | 相続税 |
課税される人 | 贈与を受けた人 | 相続人・受遺者 |
税金の手続き時期 | 贈与の翌年の2月1日~3月15日 | 被相続人の死後10ヶ月以内 |
上記から分かるように、不動産の生前贈与と相続の大きな違いは、「不動産を引き継ぐタイミングと税金」です。
生前贈与が相続と異なるのは、「渡す側」「受け取る側」のどちらかが生前贈与を望んでいても、どちらか一方が拒否をすれば成立しない点といえます。
不動産を生前贈与するメリット
不動産の生前贈与と相続のどちらがいいのか悩んだときには、両者のメリットから比較してみましょう。
生前贈与するメリットは次の3つです。
- 希望の相手に、確実に不動産を引き継げる
- 不動産から得られる収益が自分に入ってくる
- 贈与する相手が配偶者の場合、配偶者控除の特例制度を活用できる
それぞれの生前贈与するメリットについて、以下で詳細に見ていきましょう。
希望の相手に、確実に不動産を引き継げる
生前贈与の大きなメリットは、特定の相手に不動産を確実に引き継げることです。
生前贈与をしておらず、遺言書がない限りは、法定相続人の法定相続分に合わせて財産が振り分けられます。
不動産は物理的に分けられないことから相続人同士で揉めることがあるため注意してください。
特定の相続人に引き継ぐことが決められず、相続人同士で不動産を共有するケースもあります。
不動産の共有は売りたいときに全員の合意がないと売れないなどトラブルの元となるため、相続人間での話し合いが必須です。
他の親族の意思は関係なく、確実に不動産を引き継げるのは、生前贈与を選択する大きなメリットといえます。
不動産から得られる収益が自分に入ってくる
不動産が収益物件になっている場合、贈与後に不動産から得られる収益はすべて自分の収入になります。
利益を生んでいる不動産の場合、生前贈与を受けることで収入を増やせるのが利点です。
不動産から得た収益が積み重なると相続時に現金の財産が増える可能性がありますが、生前贈与を受けておけば相続時に不動産の収益が加算されることはありません。
収益物件の生前贈与には、現金財産が増えないという税制面でのメリットもあります。
贈与する相手が配偶者の場合、配偶者控除の特例制度を活用できる
一定の条件を満たした夫婦の場合、贈与する不動産が自分たちの居住する住居であれば、贈与税における「配偶者控除の特例制度」を適用できます。
- 婚姻期間が20年以上であること
- 今までに配偶者控除を受けていないこと(同一夫婦間で1度だけ)
- 贈与財産は、居住用不動産又は、居住用不動産の取得資金のいずれかであること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与された(又は取得した)居住用不動産を居住の用に供し、その後も引き続き居住する見込であること
- 贈与税の申告をすること
この上記の特例を適用することで、最高2,000万円まで贈与税を控除することが可能です。
不動産を相続するメリット
不動産を相続をするメリットは、次の2つです。
・財産額が相続税の基礎控除以下であれば相続税がかからない
・贈与税よりも税金が低くなる場合がある
相続税は贈与税よりも税率が低く控除や特例も多いので、税金を抑えられたり、非課税になったりする可能性が高い場合があります。
財産が相続税の基礎控除以下であれば相続税がかからない
相続には「基礎控除」があり、遺産の総額が相続税の基礎控除以下であれば相続税はかかりません。
基礎控除額を算出する際は、以下の計算式を利用します。
基礎控除の計算で大きなポイントとなるのは、法定相続人の数です。
【例】法定相続人の数が変われば、基礎控除額が以下のように変わります。
法定相続人の数 | 計算式 | 基礎控除額 |
---|---|---|
1人 | 3,000万円+(600万円×1) | 3,600万円 |
2人 | 3,000万円+(600万円×2) | 4,200万円 |
3人 | 3,000万円+(600万円×3) | 4,800万円 |
4人 | 3,000万円+(600万円×4) | 5,400万円 |
5人 | 3,000万円+(600万円×5) | 6,000万円 |
6人 | 3,000万円+(600万円×6) | 6,600万円 |
※以降、法定相続人が増えるごとに600万円ずつ加算される |
被相続人に配偶者と子が2人いた場合「3,000万円 +(600万円 × 3人)=4,800万円」となり、遺産総額が4,800万円以内であれば相続税はかかりません。
国税庁が調査した「令和5年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和5年度の相続税の課税割合はわずか9.9%と、相続税の納税義務が生じたのは10人に約1人の割合でした。
データから見ても、基礎控除によって多くの相続で相続税が非課税になっていることが分かります。
参考:国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」
贈与税よりも税金が低くなる場合がある
財産総額が同じ場合、贈与税よりも基礎控除のある相続税の方が税金が低いです。
生前贈与では「暦年課税の基礎控除」が活用できるが、不動産の暦年課税の基礎控除では登記費用や司法書士への報酬によって節税効果が薄くなります。
基礎控除や特例制度があるため、税負担を抑えられるのがメリットです。
どの手法を選ぶべきか迷うときには、相続に強い税理士などの専門家に相談をすることをお勧めします。
不動産の生前贈与をしたほうがいいケース
前章で不動産の生前贈与と相続のメリットをお伝えしましたが、相続より生前贈与をした方がいいのはどのような状況のときなのでしょうか。
ここでは生前贈与が適している2つのケースをお伝えします。
将来、不動産の値上がりが期待できる場合
相続税を決める要因となる不動産の相続税評価額は、相続をした時点の基準で納付すべき税額が算出されます。
したがって将来的に値上げが見込まれる不動産がある場合、相続よりも生前贈与にした方が税金を抑えられる可能性があります。
相続時に不動産の地価が上昇していると、相続税評価額の計算に用いる路線価も上がるため、相続税が発生したり税額が高くなったりする場合もあります。
地価の急上昇は稀ではありますが、もし不動産の所在地付近で都市開発が行われる予定がある場合や、すでに開発が始まっているのなら、生前贈与することで税金を抑えることも可能です。
不動産が賃貸物件など、収益になっている物件の場合
家賃収入を得られる賃貸などの投資用不動産の場合、被相続人が家賃収入を得ることで、その分所有する資産が増えてしまいます。
すると相続時に相続税の対象となる資産も増額し、結果的に納付すべき相続税の額が増額してしまう(家賃収入にも課税されてしまう)時もあります。
先に不動産を生前贈与をしておけば、不動産を受け取った相手が今後家賃収入を獲得可能です。
生前贈与のメリットでお伝えしたように、不動産が収益物件になっている場合は、相続よりも生前贈与の方が贈与の利点を活かせる可能性があります。
・贈与後に収益物件から得られた利益は受贈者のものになる
・間接的に相続税を節税できる
上記の2つは、「収入の柱を増やしたい」「他の財産によって相続税が発生する可能性がある」という方にとって、メリットといえます。
不動産が収益物件になっている場合なら、生前贈与を検討するのもおすすめのポイントです。
不動産を相続した方がいいケース
続いてここでは、不動産を相続した方がいいケースを2つお伝えします。
相続人との関係性も考慮したうえで、失敗を減らすためにも相続と贈与のどちらが適しているのか順番に見ていきましょう。
不動産を含む財産総額が基礎控除より低い場合
贈与で非課税になるのは年間110万円までとなっています。
年間110万円を超えた場合、贈与税が発生するため注意して下さい。
定期的に土地を贈与している時は、暦年贈与ではなく「定期贈与」とみなされてしまい、贈与税が課税される場合もあります。
そのため、不動産を含む財産総額が基礎控除を下回るのならば、贈与よりも相続が適しているでしょう。
不動産の相続は分割が難しく、相続登記を行う際に他の相続人の協力が必要です。
相続人の関係性によっては、贈与者と受贈者の双方の合意で手続きが進む贈与の方が良いケースもあります。
特例を利用して節税効果を得たい場合
相続時には基礎控除以外に「小規模宅地等の特例」といって、自宅や事業用の相続税評価額が最大80%減額される制度があります。
小規模宅地の特例は、被相続人と一緒に住んでいた土地を相続したときに土地の評価額が減額される特例です。※適用されるのは「土地」のみとなっています。
- 限度面積:330㎡まで
- 減額割合:80%
- 以下の3パターンの相続人が利用可能
- 被相続人の配偶者
- 被相続人の同居親族
- 3年以上賃貸や社宅に住んでいる別居親族
配偶者は無条件で対象となり、同居親族については同居期間の制約はなく、亡くなる前に同居しておけば対象となります。
また、被相続人に配偶者や同居相続人がいないなど、一定の要件を満たせば同居していない親族でも特例を利用できます。
上記の制度を利用して節税効果を得たいのであれば、贈与ではなく相続を行うとよいでしょう。
まとめ;生前贈与と相続はどちらがお得?
生前贈与と相続のどちらがいいのかは、財産総額や不動産の状況などによって異なるため、一概にどちらがいいとは言い切れません。
税金面だけではなく、他の親族(相続人)との関係性なども考慮しなければならないのが、相続と生前贈与の難しい部分です。
贈与税の制度や特例を活用し、タイミングを見極めて生前贈与を行うことで、結果的に将来の相続税の節税につながる場合があります。
一般的には相続税より贈与税の方が高くなりやすい傾向にあるため、生前贈与を検討している際は、必ず専門家に相談してください。
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